ププちゃんちゃうわ。

ご存知の方もいるかと思うのだが、うちにはわんこがいる。犬種はマルチーズとプードルのミックスで、マルプー。名前は「ルゥちゃん」だ。それはそれは可愛くて、ルゥちゃんがきてから、僕はあまり家から出なくなった。

唯一家から出るのは、朝のカフェとわんことの散歩。大体夕方の三時ぐらいに、のんびりと二人で出かける。二時ぐらいに行くと小学生たちの下校時間に重なるから、それが落ち着いたタイミングを狙っている。最近気づいたのだが、小学生はこんなに可愛いルゥちゃんにビビることが多い。近づいてきて、「わんちゃんっ」とか「ワンっワンっ」とか高い声で言うくせに、ルゥちゃんがぴょんぴょんと近づくと、逃げる。ルゥちゃんは毎回、ちょっと悲しそうにする。

今日は午後に僕が予定があるので、十一時ぐらいに散歩に行った。昼前の街は、すれ違う人もいつもと違くて、なんだかちょっとゆるい空気が流れていた。

宅配便を運ぶ兄ちゃん、何をしているかわからないおじさん、公園で弁当を食べている寂しそうな人。ああ、みんな自由に過ごしているなあと、のんびりと歩いていた。

散歩も中盤に差し掛かったぐらいの時、前から二人の兄ちゃんが歩いてきた。道幅いっぱいに二人で離れて歩きながら喋っていて、なんか絡まれそうだなあと思って、僕は左の路肩にそそくさと寄った。

そして、距離が近づき、すれ違う。一人の兄ちゃんは可愛いねえと言ってうちのルゥちゃんを眺めながら歩いていたのだが、もう一人の兄ちゃんが、ちょっと近づいてきて、

「可愛いねえ、ププちゃん〜。ワンっ」

と言った。

咄嗟のことだったから、僕も小声でありがとうございますと言って、逃げるように進んだのだが、道を曲がるところで、ん?となった。

ププちゃん?ぷ、ププちゃん?そして今、こいつ鳴いたぞ?

皆さんもご存知の通り、うちの子は紛れもない「ルゥちゃん」だ。そして、散歩で初めてすれ違う人が、うちの子の名前を知っていることなんて、天変地異が起きても、ない。

僕は曲がり角を曲がって、兄ちゃんの言葉を繰り返した。

ププ……。

心の中で、ププちゃんちゃうわ、ルゥちゃんだ、と、どこにもぶつけられない気持ちになった。そして、もしかしたら兄ちゃんが昔わんこと暮らしていて、その子がププちゃんだったのかもしれないと思った。

草の匂いを必死に嗅いでいる「ルゥちゃん」を見つめて、ねえ、ププちゃんなの?と話しかけた。ねえ、あの兄ちゃんと、どういう関係?なに、浮気?前世で結婚でもしてた?

いくら話しかけても、もちろんルゥちゃんは答えない。うちのルゥちゃんは女の子。たぶらかされている男の子の気持ちになって、帰り道までの間は、リードをちょっと僕の方に手繰り寄せた。