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2026.03.12

ある日の深夜二時。曇りばかりの夜は、相変わらず透き通った白い空気を纏っていた。
煙草を吸う前に一呼吸すると、広い世界を感じられた気がして、どこか遠くへ行ってしまいたくなった。今日の夜空は、深くも真のある青だった。いや、藍色の方が近いかもしれないが、青く見えた。部屋に入って、自分のパソコンと色が似ている、と思った。
寒さがつんと体の中に残って、人間の弱さを感じた。食物連鎖の頂点にいるのに、空気一つで死にそうになってしまう、弱い生き物。この部屋やベランダにあるもので、何一つ自分が作ったものはない。そう思ったら、急に自分が無力に思えてきて、すぐにその思考をかき消した。
いつもはスピーカーで聴いている音楽を、今は携帯から流している。少し掠れたその音は、今の心にはちょうどよかった。そういえば、いつか行った知り合いのシンガーソングライターのライブハウスも、こんな音だった気がする。ああ、あれはよかった。
暖かい部屋の中で、今日はじっくりと淹れたコーヒーの熱さが、体に染みる。抱きしめられている気がして、ほっとする。人は支え合うから、「人」っていう漢字になったんだよと、多分小学校で教わったであろうことを思い出す。隙間風を感じながら、じゃあ自分は誰かの支えになれているのだろうかと、頭に浮かぶ。
いや、嘘をついた。誰かを支えようなんて思っていない、支えられているとも思っていない。
目を瞑ると、ぼんやりと煙草の残り香とともに、頭が軽くなるような気分になった。ダウンジャケットを羽織ればよかったと、後悔した。
ふと。先日友達から聞いた短編小説の公募ページを見る。応募要項をざっと見た後に、受賞作品の紹介ページを見た。最終選考に残っているものまで乗っているのかと、珍しく思いながらスクロールをしていると、「もう少しの作品」という欄があって、五十個ほどの応募作品がリストになっていた。こんなにも応募作品があるのかと、少し慄いた。もしかしたら区切りタイトルの文言は「あと一歩の作品」だったかもしれない。お前が決めんな、という言葉が心から出てきたことを覚えているので、きっとそうだ。
どこか知らないところへ行って、ただ何も気にせずに書きたい、と思った。
