晴れの日の雨に恋をした #1

「えーっと、牛肉買ったでしょ。にんじんにピーマン、あと玉ねぎも買った。焼き鳥の串もあったから、それも追加で買った。うん、大丈夫そうだね。」

陽菜はスマホの買い物リストを確認しながら、これで大丈夫、と少し笑って、レジに向かった。

「雨くん、何か欲しいものある?」

大学一年生の雨。陽菜は三年生で、雨の先輩に当たる。今日は新歓バーベキューの日で、雨と陽菜は買い出し係を任され、二人で集合時間前に、木場公園の近くのスーパーに来ていた。

「ああ、えっと、その」

雨は、突然陽菜に顔を近づけられ、戸惑っているようだ。ちょっと前まで高校生だった雨にとって、二つ上とはいえ大学三年生の陽菜は大人に見えるようだ。

「ない?ないなら、これで買っちゃうけど、いい?」

陽菜はテキパキとしている性格だ。後輩の雨が緊張していることすら気づかずに、今の自分の仕事は買い出しなのだと自覚して、それをするだけ、と言わんばかりにはっきりと言葉を話す。

スーパーはあまり大きくなく、一階のみの平らなスーパーで、新鮮な野菜が多い。実家で健康的な食生活をしている陽菜は、野菜をとにかく買えば安く済んで量もあるからお腹もいっぱいになる、と雨との行きの道で自信満々に話していた。雨は特に何も言わずに、陽菜の隣をしょぼんと歩いていた。

買い出しが終わり、スーパーを出る。4月の木場公園には、まだ桜が咲いている。駅から少し歩いた道から見える歩道に沿うように、桜の木が並んでいて、満開からは少し経ってしまったが、花見をするにはちょうどいい。陽菜は一週間前から天気予報をチェックしていて、もし雨が降ったら、近くのラウンドワンでボーリングをしようと、新歓幹事長に提案していた。それでも、今日は快晴でその案は使わずに済んだ。それだけでも陽菜は嬉しそうだった。

「私、晴れの日が好きなんだよね。」

スーパーの袋を雨に渡して、手ぶらのまま少し空を見上げて陽菜は嬉しそうに言った。

「雨くんは、晴れの日は好き?」

陽菜は歩幅を大きくし、雨の少し前に出て、手を後ろに組んで振り返って雨に聞いた。雨はあまり出会ったことのなかった年上の陽菜に、まだ緊張が隠せていない。

「ええと、はい、晴れの日は好きです。晴れの日は、なんだか葉っぱが嬉しそうで。」

葉っぱのことを言う時、雨はちょっとだけ陽菜の顔を見て、余計なことを言ってしまっていないか確認した。陽菜は特に興味がなさそうに、前を向きながら相槌を打った。

「葉っぱが嬉しそうなんて、変なの。雨くんは名前の通りだね。」

陽菜はまた雨の方に振り返り、雨に向かって笑顔を向けた。新歓の会議で幹事長から後輩にはなるべく優しく笑顔で接するように言われていたので、それを意識したつもりだったが、自分の中で自然な笑顔が出ていることに少し驚く。

「じゃあ、菊池先輩は、雨の日は好きですか。」

雨は顔が赤くなるのを隠すように、質問を重ねた。陽菜は、うーんと少しの間考えてから、また空の方を見た。

「うん、雨もいいかもね。」

空を見ながらそういう陽菜の横顔を、ぼんやりと見つめる雨。不思議と緊張が解けていて、雨も自然と空を見上げる。薄い桃色の桜と、澄んだ青色の空。鳥がよく鳴いていることに、ふと気づいた。